ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

価格(ss)



二人が到着した街は角都のみならず飛段までもがギョッとするほど物価が高かった。あーあ、と飛段が嘆息する。手に入らねえとわかって見るとますます欲しくなるよな、おいあの豚の丸焼き見てみろよ、脂たらたら流しやがって、くそーあれ食えるんだったらオレぁ何でもするぜ。それを聞いていた角都は、自分でも仰天したことに飛段を連れてその店に入り、焙られた子豚を注文する。狂喜して肉を頬張る相棒と対照的に静かに、しかししっかりと胃を満たしながら、角都は思案する。何でもすると飛段は言った、ならばこちらの積年の願いである宗教の放棄を命じてみようか、例え冗談でもいい、こいつが神を捨てると言ってくれさえしたら俺は。だがパリパリした皮をテーブル上に散らかしながら豚を解体している飛段の幸せそうな顔を見るうちに角都の決心は鈍ってしまう。確かに良い値段だったとはいえ豚肉と神の交換は厚かましすぎるかもしれない、神の適正な価格は不明だが。角都の平均月収の三カ月分で貴金属でも買ってやったときに言い出してみるとしようか、飛段が貴金属を受け取るかどうかはわからないがそれはそのとき悩めば良い。とりあえず問題を先送りした角都は改めて料理に手を伸ばす。これの見返りに飛段に何を命じるか考えながら。なんのかんの言っても子豚はたいそう高かったのである。