ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

絵に描いた餅(ss)



写真など持ってくるべきではなかった。持っていれば見てしまうし、見ればそのときの匂いや温かさ、感触まで思い出されて俺は狂おしくなる。口をぽかんと開いた相棒の寝顔は間が抜けていて微笑ましい。あのとき俺も邪念なく、ただ面白いと思って撮ったのだ。ひりひりするような寒さの中、岩場に伏せて目標を待ち伏せる間、俺は何度も隠しから紙片を取り出しては眺め、それをまた隠しにしまう。枕に乗り上げ過ぎてのけぞった喉、乱れた髪、薄いまぶた、桃色の唇と暗い口内。よれた浴衣の襟元からつやのある皮膚に覆われた胸部がチラ見える。この胸には丸い肩としなやかな筋肉に包まれた腕、そして、平らな腹といろいろな点でおいしい下半身がつながっていることを俺は知っている、それらが温かくてすべすべしていて部分的にほどよく湿っていることも。雪になりかけの冷たく硬い雨が低い空から落ちてきて、俺は慌てて写真をしまう。ああくそ、折れるし濡れるしで気が気ではない、ラミネート加工をしてくるべきだったか、いや違う、そもそも写真など持ってくるべきではなかったのだ。