ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

おしまい(ss)

※「回復期・続き」の続きです^^;鬼鮫視点で。



角都さんが半死半生で帰ってこられたときは正直これであの人も終わりかと思いましたね。仲間が、しかも一番の稼ぎ頭が死ぬのは組織にとって痛手ですが、殺し合った忍の片方が死ぬのは当然ですからそれ以上の感慨は特にありませんでした。今日はあの人の番だというだけのこと。概して忍の終わりはあっけないものです。できる限りの手を尽くしてからも角都さんの意識は戻らず、私たちは角都さんの不在にじきに慣れました。暁の会計はリーダーが預かりましたし、もともと私たちは互いに干渉することがありませんでしたから。一度見舞ったときの角都さんの怪我は想像以上のものだったので、その後どうやら持ち直したらしいと聞いても、あの人が暁で元のように仕事をこなせるようになるとは思いませんでした。なので、今日飛段さんが一人で現れて、リンゴねーかリンゴ角都がリンゴ食いたいってェ、と頭が悪そうな声を張り上げたとき、ものが食べられるほどに回復したのかと私はたいそう驚いたのです。飛段さんがリンゴだけを持って行ってしまったので、私は急いでおろし金と器とスプーンを探しだし、それらを持って後を追いました。大怪我から回復したばかりの高齢者がリンゴを食べるのならすりおろさなくてはと考えたのですが…。きちんと閉まっていない扉の隙間から見えたのは寝台の上でこちら向きに体を起こしている角都さんと、その寝台に腰かけて件のリンゴをかじっている飛段さんの姿でした。ちゃんとよく噛めよ、と相棒に意見する角都さんはまったくもって元気そうに見えました。んん、と答えた飛段さんは上半身をねじって角都さんに向き直り、まあその、リンゴを食べさせたんですね。廊下に立ちつくす私の前で、介護されている角都さんはひょいと片腕を伸ばして扉を閉めてみせました。音も立てず気配もさせずに。締め出された私はおろし金と皿と匙を持ったまま、あの人本当に終わっているなあ、と慨嘆しました。思い起こしてみればずっと前から角都さんは終わっていたんですよ、いろいろと。今さらそんなことに気づくなんて私もどうかしてますがね。