ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

帰った後(ss)

「しおたれた夜」の続きです。この小話にいただいたコメントから二種類の続きを書いてみました。酔っぱらった状態を発見される「ダメ版」(こあん様ありがとうございます)と、平然としたところで飛段を迎える「取り繕っている版」(ハヤト様ありがとうございます)です。冒頭数行は共通しています。どちらにしても変な話ですが、よろしければどうぞm(__)m



ダメ版

お連れさん戻ってますよと言われてオレはさらに上機嫌になった。昔の友人と昔のまんまのバカをやり、肉食って酒飲んでほろ酔いで帰ってくれば、部屋にはだいじなだいじなオレのツレ(愛人と言ってもいいがな、ヒッヒッ)が待っているのだ。まるで世界全部がオレのものみたいじゃないか。ふわふわとご機嫌で部屋の扉を開けたオレは真っ暗な室内を意外に思い、次いですぐ足元の大きなかたまりにギョッとする。なにコレ!角都?敵襲されたか?うわっ酒クセェ!数秒間でここまで認識したオレはかたまりをまたいで部屋の電気をつけ、考えてもみなかった相棒の姿を目の当たりにする。脱いだものはきちんと掛けておけと口うるさく言う角都がコートも頭巾もマスクもあたりに散らかし、面だらけの背中をさらしてうずくまっているのだ。おいおい角都よォ、と、とりあえずオレは声をかけて圧害の面を撫でてみる。プフー、と角都が引火しそうなため息をつく。貴様、飛段か。ああカワイコちゃんじゃなくて悪かったな、しかしクッセーなァ、テメーいったい何をどんだけ飲んだんだよ。うー、と唸った角都は続けて、おい小便、と言う。聞き間違いかと思ったがそうではないらしく、現に角都はうずくまったままごそごそとズボンの前をまさぐっている。安宿のこと、部屋に便所などついていない。仕方がない。オレは急いで部屋の電気を消して窓を開き、抱え起こした相棒をそこまで歩かせると、重い体を背後から支えながら放水銃をズボンから引っぱり出す。と、その手を角都が押さえ、貴様、本当に飛段だな、と妙な確かめを入れてくる。本当に、本当に、飛段なんだな。こんなバカみたいな状況でなんて声を出すんだろう。すっかり酔いがさめたオレは悲しくなってしまい、どうしたんだよ角都ゥ、とこっちまで情けない声を上げてしまう。そんなオレたちの手に支えられた放水銃から、じょろじょろ、と牧歌的な音を立てて水が放たれる。じょろじょろじょろじょろ、じょろじょろ、ちょん。



取り繕っている版

お連れさん戻ってますよと言われてオレはさらに上機嫌になった。昔の友人と昔のまんまのバカをやり、肉食って酒飲んでほろ酔いで帰ってくれば、部屋にはだいじなだいじなオレのツレ(愛人と言ってもいいがな、ヒッヒッ)が待っているのだ。まるで世界全部がオレのものみたいじゃないか。ふわふわとご機嫌で部屋の扉を開けたオレは、小さな座卓にいつもの帳簿を広げているいつも通りの相棒の姿を認め、半分安心し、半分落胆する。温泉を楽しんだ角都が酒なんか飲んじゃってちょっと緩んだ浴衣姿で待っていてくれたりしたらどうしよう、と無駄な期待をしていたのだ。まあしょうがない、女を連れ込まれたりするよりは百倍もいい。オレは座卓を挟んで相棒と向かい合う。よう、風呂は入ったか、メシ食ったか、何食った、魚ァ、あんなもんよく食えるな、酒は、ヘッどうせろくに飲んでねぇんだろう、もっとハメ外したっていいだろうによォ。オレが何を言っても相棒は、ああ、としか答えない。帳面が逆さだぜ、と言ってやったときだけ少し間をおいて、逆さに読む訓練をしているのだ、と変な答えをしていたけど、あとは見た目とおんなじ、いつも通りだ。やり取りに飽きたオレはこの里唯一の美点である温泉に行くことにした。この宿の湯は特にぬる湯であり、じっくり浸かると疲労回復に効果がある。今夜うまくやれたら明朝の一番風呂で疲労回復できるなあ、とまたもや無駄な期待をしながら服を脱いで浴衣に着替え、顔を上げたオレは、いつの間にかすぐ目の前にぬっと立っていた相棒に驚いて後ずさる。今時分どこへ行く。風呂だよ。ならば俺も行こう。オメーもう入ったんだろ。せっかくの湯だ、何度入っても良いだろうが。じっとこちらの目を見つめて話す様子が常と違っていて、もしかしてこいつ酔ってるのだろうか、とオレは初めて考える。廊下に出て歩き始めても角都は異様に密着し、片手でオレの肩を抱いてもう片手でオレの手を握ってくる。もしかしたら今夜のオレは風呂で疲労しながら疲労回復できるチャンスに恵まれるのかもしれない。これも無駄な期待なのかもしれないけれど。