ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

できごころ(ss)



飲み屋のカウンター越しに、あと一人前しかないけど構いませんかね、と板前が言ったとき、まったくそれに興味がなかった飛段は、オレぁいらねえよ、と答えた。けれども幸せそうに皿をつつく相棒を見るうちに気を変え、その赤味がかった黄色いものの最後の一切れを皿からかすめ取って口に投げ込んでみる。とたん、あっ!と相棒が上げた声にギョッとし、半ば開いた口からアン肝を覗かせてかたまるが、もう遅い。巷で犯罪者と呼ばれる飛段だが、自身を悪人だとは考えていなかった。人間の都合で定めた法律に定義される犯罪と神の領域である善悪を並べて判じることがなかったからである。けれどもこのときは自分が悪かったと心底思った。あっ!という声を聞いただけで。