ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

おいしい(ss)



相手の攻撃を顔面に受けて歯のほとんどを折られてしまった飛段のために、その夜角都は粥をこしらえた。焼いた石皿の上で米を煮込み、岩塩のかけらを落とす。いびつに腫れた顔でつまらなそうにシンプルな料理を見ていた飛段は、ふいに天を振り仰ぐともう暗くなっている空めがけて石を投げた。ばさっ、と音を立てて落ちてきたのは鴨である。飛段は黙ったまま(しゃべれないのだった)角都のコートを探ってクナイを取りだすと鳥の首を落とし、逆さにして血を抜き、雑に羽をむしると腹から臓物を取り出し、肉を骨ごと切り出して石皿に投げ入れた。熱い石皿のふちで鴨肉がジュウジュウ音を立て、香ばしい脂が粥の表面をきらめかせる。思いがけない相棒の能力を目の当たりにした角都は感銘を受けたが、感情をあらわにすることに慣れていないため、黙りこくったまま、だが敬意を持って匙を相棒に手渡した。そうして角都は鴨肉を食べ、飛段は粥を食べた。満ち足りた沈黙が辺りを領していた(飛段はまだしゃべれないのだった)。