ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

リップサービス(ss)



角都がカリカリしている。もしかして更年期かァ、と言ってみたら本気で蹴りつけてきたので恐れ入った。まんまと蹴られた腹を抱えて転がるオレを冷たく見下ろし、貴様は本当にノロマだな、と今さら失礼なことを言う。売られた喧嘩は買わなきゃなるまい。オレだってやるときはやる、と言いたいところだがスピードで相棒にかなうわけもなく、シュッシュッと動き回る角都は機械のように正確で容赦ない攻撃を繰り出し、しまいには地べたに這いつくばって、げー、と血反吐を吐くこっちの首をつかむと軽く吊り上げた。オレは角都を殴ろうとしたが手が届かなかった。奴の方がリーチがあるのだ。いろいろ負けっぱなしで悔しいが仕方がない。角都はズタズタのオレを汚物を見るような目で眺め、ノロマな貴様と組んでやる奴など俺以外にはいないぞ、などと妙に恩着せがましいことを言ってくる。こりゃきっとあれだ、とオレは思い当たる。今日の商談相手だったくのいちがオレの見かけについて世辞を言ったのである。化粧がキツかったがかなりの美人だった。角都のヤローは心が狭いから胸のでかい女がオレばっかり褒めたことにヤキモチを焼いたに違いない。折れた歯を吐きだし、オレは誰でも組みたい奴と組むぜ、と言ってやると奴は眉の間と鼻の上に盛大にシワを寄せる。いい気味だ。オレを褒めながらも鋭い視線を角都から外さなかった女は明らかに角都の気を引こうとしていたが、鈍いこいつはそれに気づかなかったんだろう。そう、角都は鈍い、かんたんな言葉の真意をつかむことができないほどに。猫の死骸のようにぶら下げられたままオレは鈍感な相棒をせせら笑い、血しぶきと一緒に再び本音を吐きかけてやる。ゲハハァ、オレは組みたい奴としか組まねえぜ、いつだってなァ!