ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

堕落(ss)



角都が不機嫌なのはよくあることだが、いつもは怒りの矛先を他へ向ける相棒が珍しく内省しているようなので飛段は心配になった。どうしたんだよ、と尋ねる声の本気を感じ取ったのだろう、暗く沈んでいた角都がムツムツと愚痴をこぼす。俺たちに仕事の依頼をしたあの野郎、前払いと言っておいたのに今日になって事後に払うと言うのだ。ならその仕事やめりゃいいじゃん。諦めるには報酬が高過ぎる。なら金もらってからそいつを殺そうぜ。それが支払いは本人ではなく愛人にさせるらしい、よくよく他人を信用しない奴で支払いの後に証拠を消すため愛人も始末しろと言いやがる。そりゃひでぇ野郎だな、天罰が下るぜ、テメーが怒るのも無理ねえなあ、と飛段が同情するが、違う、と角都は唸り返す。奴は正しい、あんな生業で他人を信用するのはただのバカだ、あれでいいんだ。なら何にムカついてるんだよ、ともっともなことを尋ねられて角都はイライラと拳を握りしめる。かつては角都もあの男のように誰も、自分すら信じない己を誇りにしていた。信じられるのは金だけ。長く生きて得たこの至言を疑ったことはないのに、あの男の振舞いに不快を覚えるとは、この体たらくはどうしたことか。