ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

そのための面積(ss)



角都の金勘定を待つのに飽きて外に出ようとしたら、そこの主であるオバサンが近づいてきて、あんたチンピラみたいだわね、ちょっと前髪おろしてみなさい印象変わるからと言い、小さな櫛でオレの髪をいじった。ふーんと思ってそのまま換金所を出て相棒を待っていると、通りの向こうからこっちを見てワヤワヤ言っている女の集団が目に入る。あの人かっこいい、と聞き取れたので相棒が出てきたのかとオレは振り返ったが後ろには誰もいない。わけがわからずまた通りの向こうを見るとまたまた女どもがワヤワヤ言う。えっやだーこっち見た、やだー超かっこいい、どうしよー。両手で口を押さえている女、小さなカメラを手にする女、奴らの前にはオレしかいない。おおもしかしてオレのことかよ、前髪効果すげー、超モテモテ!女たちだけではない、道を通る野郎なんかもチラッとこっちを見たりする。やっと表に出てきた相棒もぎょっとした顔でオレを見る。どうよカッコいいだろ惚れ直すだろ、と得意満面のオレを、しかし相棒はあっさりスルーして歩いていく。見慣れなくて驚いただけらしい。一気につまらなくなったオレは相棒の後をついていき、前髪のことも忘れてその日を過ごした。ところが夜、焚火のそばでごろ寝をしていたら相棒が寄ってきてオレの髪をいじりだしたのだ。おりている前髪を指で掻きあげて何度も後ろに撫でつけようとする。やけにそーっとやるもんだから今さら起きてると言えなくて寝たふりを続けるオレは、明日はいつものようにオールバックにしよう、と心に決める。女どもやそのへんの野郎に受けなくたってかまわない、チューするぐらいオレのおでこが好きだってんならオレぁこれからもぜってー前髪なんかおろさねーぜ、角都よ。