ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

傘(ss)



雨をしのぐために張った小さな天幕の下、濡れたコートを脱いだ飛段がどこからか油性ペンを取りだして自分の体に落書きを始める。尋ねれば、死体に番号をふるために換金所に置かれていたペンをちょろまかしてきたのだと言う。呆れる角都を尻目に飛段は自分の両手首にぐるりと二本線を引き、腕や胸に縫い目を描いて悦に入っている。背にも四つの面を描いてくれとせがまれた角都は初めは突っぱねるが、結局はペンを取って相棒の裸の背に向かいあう。強そうに描いてくれよな、と飛段が注文をつける。特に圧害はうっかりすると可愛くなっちまうから気をつけろよ。言われるまま白い背に四つの丸を描いた角都は、左上にへのへのもへじを、右上にかわいいコックさんを描き、少し迷ってから左下に相棒の、右下に自分の似顔絵を描くと、最後にサッサッと四本の線を引いて仕上げる。柄入り相合傘の落書きを背負った飛段は、返されたペンで、今度は自分の頬と腹に縫い目を描き始める。角都は放っておく。相棒がどんなみっともない姿になろうがどうせしばらくは無人の荒野を行くのだ。二人きりで。