ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

だから言ったのに(ss)

※第三者視点です。



おれは今まで何度も角都さんにあの若いのと別れるよう助言してきた。忠義の志士とあんな若造では釣り合わない、下品でダンナの評判にまで傷がつく、金に縁遠い顔をしている、とまあ思いつく限りのことを言ってきたのだが、そのたびに角都さんはアレは殺せないなどと意味不明のことをゴニョゴニョ言って結局今も一緒にいる。おれは若造を殺せと言っているのではなくコンビを解消した方がいいと言っているのだが、角都さんはそのことになると変にものわかりが悪い。件の若造は今日も入ってくるなり暑い暑いと大騒ぎをした挙句、背負っていた大きな鎌をワイヤーごと床に投げ捨ててコートを脱ぐと死体保存用の冷蔵庫に潜り込んでいった。おれは驚いたが、中身の有無にかかわらず冷蔵庫の電源は入っているのだし、くさいだの腹が減ったのと騒ぐ者がいなくなるのはこちらにとっても好都合である。持ちこまれた賞金首を若造のとなりの庫内に納めていると、金を数えていた角都さんが、冷蔵庫を新しくしたのか、と尋ねてくる。前に見たものより収納スペースが広いな。そうなんですよ、と嬉しくなったおれは説明する。さすがダンナはお目が高い、これは巨漢の賞金首に備えて購入したばかりの新品でね、節電省エネ型、しかも普通の体格の人間なら一区画に三体入れられるから省スペースにもなる、高かったがそれだけのことがありましたよ。何かを考えるふうに宙を見ていた角都さんは小さく頷くと、札束の帯封をひとつ外し、その紙片に走り書きをしてこちらに手渡した。すまんがちょっと使いをしてほしい、この薬が必要なのだが調合に時間がかかるのでなかなか入手できずに困っているのだ、俺が金を数えている間に都合してきてもらえないか。顧客の、それも角都さんの要望を断れるはずがない。おれは馴染みの薬屋へ出向き指定の薬品の調合を頼んで、できあがったそれを持って換金所へ戻った。多分三十分ほどかかったと思う。そうしておれは見てしまったのだ、いやに満足そうなスッキリした顔で冷蔵庫から這い出して来る角都さんを。ドアの施錠に手間取るふりをして振り返ったときにはもう椅子にかけて金勘定をしていたが、間違いなくあの人は若造と一緒に冷蔵庫の中で涼んでいたのである。おれは心の中で慨嘆する。戦場を駆ける不死の武人である角都さんがあんな子供っぽいことをするとは。若造のせいだ。なんと嘆かわしいことだろう。