ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

あがり(ss)



古本屋の店頭ワゴンをあさっていた飛段が、いかにもいかがわしそうなシロモノを買った。厚紙にけばけばしい色合いで刷られたそれは低俗雑誌の付録だったらしい双六で、それでも小さなサイコロがふたつついている。夜、隠れ家に戻ると飛段は双六を隠しから引っぱりだし、ニタニタしながらそれを机の上に広げて相棒を誘う。なあこれやろうぜ角都。見れば双六の升目にはそれぞれ「せつぷん」だの「しやくはち」だの「だつい」だのと書かれており、ご丁寧に説明の絵まで添えられている。すぐさま断ろうとした角都だが、てっきり合体だろうと思っていたアガリの升目に「しゆいんをみせる」と書かれているのを見て虫が騒ぎ、挑戦を受けることにする。もちろん勝算があってのことだったのだが、しかし、付属のサイコロは歪んだつくりで勝負事に長けた角都が転がしても思うような目が出ない。うっかりすると自分が先にあがって「しゆいんをみせる」ことになりかねない。角都は眉間にしわを寄せ、サイコロの目に集中する。思いのほか熱心な相棒に気を良くした飛段は威勢よくサイコロを振り、升目の指示に従って楽しげに服を脱いだり角都の体に触れたりする。こんなおいしい状況だと言うのに角都はきまぐれなサイコロに翻弄され、相棒の様子を楽しむことができない。熱戦の末、不運にも六のぞろ目を出してしまった角都は、相棒をあっという間に追い越してアガリの升目へ進む羽目になる。オメーの勝ちーと無邪気にはしゃぐ飛段をよそに、角都はまず湯呑を紙の上にひっくり返し、それを拭くふりをしてゴシゴシこする。ああスマンとんだ粗相をしたな、では続けるか、と角都が置きなおした紙を見て飛段は首をかしげる。「しゆいんをみ る」と書かれているアガリの升目。文字の間があんなに空いていたっけか、と考える飛段を角都がせっつく。俺が見る側だからお前が見せる側だぞ、さあさっさと見せろ。そこで、飛段は本来自分が得るべきだった娯楽を気前よく角都に与える。見る側でも見せる側でも構わない。買ってきた玩具で相棒と楽しく遊べれば飛段は満足だったのだ。