ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

誰も何も言わない(ss)



絵に描いたような満月が明るくてよく寝つけず、リーリーシャンシャンキッキッと虫どもがやかましく鳴いているのを聞いていたら、隣で寝ているはずの角都が突然フニャフニャした声で、きさまーふざけるなー、と言った。何だよと訊き返してからオレはそれが寝言だと気がついた。夢の中まで物騒な野郎だ。角都は続けて、よこせ、と言い、むぐむぐ何か言いながらオレの体に腕をかけて引っ張ろうとしてきた。カネの夢でも見ているんだろう。あきれて身を離そうとしたらむぐむぐ言う声が悲しげに高くなったので、引かれるままに奴のふところに入ってやると、奴は重たい腕をオレに巻いて、だれがなんといおうとわたさんぞ、とフニャフニャわめいてからやっと静かになった。テメーのカネ好きに口を出す奴なんかオレの他にゃ誰もいねーぜ、と呟いた文句はやかましい虫の声にかき消された。よかった。そっと言い過ぎたせいでなんだか愛の告白みたいになってしまったので。