ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・スケ11(trash)

台風の被害が大きくて、ニュースを見ては落ち込んでいます。私の住む地域では床下浸水ぐらいで済みましたが、堰止湖の下流の場所では今でも緊張が続いていることでしょう。何事もなくあのダムが干上がると良いのですが。



<スケッチ 11>


 飛段がまた曙会でモデルをするきっかけを作ったのは角都だ。しばらく会を休んでいる角都を案じて連絡を入れてきたペインに、絵の題材には今のところ困っていないので、と答えた角都は、その自慢に素直に反応したペインの希望をはぐらかすことができなかった。
「整った体をしていたからポーズが安定したのならいいモデルになったろう、皆が喜ぶ」
「あいつは相当気まぐれだ、週末には遊びに行くかもしれんし受けるかどうかはわからんぞ」
「そこはお前からうまく説得してくれ。お前なら信頼も厚いだろう、仲間のためだ、よろしく頼む」
「…話してはみる。期待はするな」
 ところが角都の思惑に反して飛段は依頼を快諾した。よっしゃーあんときのリベンジをしてやるぜと電話口で大声を出す飛段は楽しげで、角都は鼻白んだ。
「俺は行かんぞ」
「なんで」
「用がある」
「まあオメーはオレのことしょっちゅう描いてるもんな。また水曜日にそっち行くから、そんときどんなだったか話してやるぜ」
 じゃあなと明るく切られた電話を握ったまま角都は考える。自分の作品といってもいいモデルとしての飛段を披露し、皆の賞賛を目の当たりにできるせっかくの機会をつぶしてしまった、キャンセルを撤回しようか、用はなくなったと飛段に言えば済むのだから簡単だ、だが自分の不在に頓着しない飛段の態度は面白くないし、行けないときっぱり言った手前のこのこ行くのも格好悪い、どうせ飛段は水曜日に来るのだからそのとき話を聞けばいい、飛段のモデルが気に入れば暁会も次の機会を作るだろう。
 行かない理由づけをしたものの角都はなぜか心穏やかになれず、携帯電話を乱暴に折りたたむと窓に目を向けた。夕方というには遅い時刻で、空は暗く、その下の海はさらに暗かった。ガラスに映る角都が本体を睨みつけていた。


→スケッチ12