ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ごちそう(ss)



夜遅く、商談に出かけていた角都が木造モルタルのボロ隠れ家に戻ると、草ぼうぼうの庭先に青い紐で枝を束ねたようなゴミが置かれていた。不法投棄かとそれを睨みつつ角都は玄関を開ける。高級料亭での接待でしたたかに飲み食いしてきた今は風呂に入ってとにかく早く眠りたい、ゴミを隣家の庭に投げ込むのは明日でもいい。中へ入れば埃でざらつく廊下の奥が明るく、あの野郎また電気をつけっぱなしに、と、それでも足音を立てずに台所へ入っていった角都は、テーブルの大皿に盛られた枝豆と眠そうにむくんだ顔で椅子に座る相棒を見つけて少し驚く。遅かったなァ、とそっけなく角都を迎える飛段はさも興味ありげに新聞を開いているが、経済欄のページだからまず間違いなく読んではいまい。状況をはかりかねて立ちつくす角都に飛段は、あくまでも目は新聞に向けたまま皿へあごをしゃくって見せる。それよォ、ちょっと茹でてみたんだけどまあ不味くもねーぜ、良かったらためしに食ってみろよ。あやふやな気持ちのまま相棒と向き合って椅子に掛けた角都はマスクを外して大皿に手を伸ばし、荒く塩の振られた枝豆をつまむ。ぷんと青い香りがたち、さやには虫食いのあともある。酒でぼんやりした頭にゆっくりと記憶が立ち上がる。そうだ、数日前に近隣の大豆畑を通ったとき角都自身が言ったのだった、こういうものは旬の採れたてを食うのが一番うまいと。確か畑の近くには直売所があり、台の上には青いビニールひもでくくられた農作物が並んでいた。角都はテーブルの向こうで新聞を持つ相棒の手を見る。暁を抜けてから染められることがなくなった爪が黒く汚れている。と、その手ががさりと新聞を畳み、じゃあオレぁ先に寝るぜ、と席を立つ。角都は不愛想にうむと応えて再び皿へ指を伸ばす。隣の部屋で動いていた気配がとまり、虫の音だけがあたりを包んでも角都は豆をつまみ続ける。料亭の食事も悪くないが、旬の季節に採れたてのものを食べる贅沢にはかなわない。だからどんなに腹が苦しかろうと角都は豆を平らげるのだ。