ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ちょっとだけ(ss)



山越えの最中、へたばった飛段がちょっとだけ休みたいとごねだした。降雨の前に里へ降りたい角都としてはこんな場所でぐずぐずする気はない。だが、ついさっき儀式中の飛段にいたずらを仕掛けて遊んでしまった手前、時間が惜しいとは言いづらい。そこで角都は、めったにしないことだが、相棒の前に身をかがめて負ぶってやろうと申し出る。喜んで背負われた飛段はしばらく上機嫌にはしゃいでいるが、やがて舟をこぎ始める。ゴツゴツと何度も後頭部に頭突きをされた角都は相手を乱暴に揺すりあげ、眠いのならちゃんと寝てしまえと促す。んうー、と飛段がうなる。せっかくオメーがおんぶしてくれてんのにもったいねーだろ。布越しの片耳に頬をすり寄せられた角都は何と返してよいかわからず、馬鹿が、と言うにとどめておく。そんなやり取りをしていたくせに飛段はじきに眠ってしまったらしい。重たくずり下がる荷を今度はそっと揺すりあげた角都は、馬鹿が、ともう一度呟く。いつもより、ほんの、ちょっとだけ優しく。