ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・スケ12(trash)

仕事がうまく進まず、毎日自分に苛立っています。もっと頭が良ければ能率よく仕事ができるのに!キー!
更新もアレレな感じですみません。ちょびちょび書くから時制もメタメタです。この話もそろそろ片付けないと…。



<スケッチ 12>


駅前ロータリーで車に乗った時から飛段の口は回りっぱなしで、ポーズに入っても舌の速度は衰えない。あのピアスだらけのリーダーは女の子に告っちゃえばいいのによ、あの子だってまんざらでもないみたいだぜ、野郎がからかわれてるとちゃんと助けるもん、顔色の悪いでかい奴、あいつああ見えて可愛いもの好きなのな、携帯のストラップにふわっふわのキティちゃんをぶら下げてやんの、デイダラちゃんはやけに形を崩してデッサンするからチューショー画みたいになってるし、こないだもここに来た赤毛の子どもみてーなおっさんは股間どアップで写真撮るし、あれもずいぶんな変人だよなー。以前角都に指南されたポーズを取ったこと、昼には皆で安い弁当を食べたこと、とりとめなく流れ続ける飛段の話を角都は内心楽しんで聞いていた。今回は妙な形で休んでしまったが次回のデッサン会には出ようと考える。飛段によれば暁会の面々は皆揃って飛段のモデルぶりを讃嘆したらしい。皮肉ではなく角都は唇の端を上げる。たわいのない話を続けさせようと、他にも誰か来ていたか、と尋ねた角都は相手のちょっとした沈黙にふと違和感を覚える。そうだな、前は見なかった奴が一人いたぜ、カブトって野郎で、人が死んでる絵ばっかり描いてるんだと、実はそいつにモデル頼まれたんだよ帰りんとき、死体のふりしてポーズ取ってくんないかってさぁ。角都はしばし黙って鉛筆を走らせるが、またたく間に眉間には深くしわが寄り、唇はへの字に曲がる。その話、受けたのか。あーどうしようかって思ってさ、死体のマネってのも面白そうだしカネも悪くないみてーだしな。飛段の口調には相手を試すような安っぽい響きがあったが、常の思慮深さが嘘のように角都は挑発に乗る。フン、そんな得体のしれない仕事を受けるかどうかまともに考えるとはな、貴様がそんなに金好きとは知らなかったぞ。おいおいテメェには言われたくねーな、と飛段も言い返す。信じられるのはカネだけだとかなんとか言ってたくせによォ、それに得体がしれねーのはテメェもカブトもおんなじだろうが。カタリ、と音を立てて角都が鉛筆を置く。強く見据えられて飛段はたじろぐが、すぐに言葉を継ぐ。おい角都よ、カブトが言ってたぜ、テメェもあいつのモデルやったんだってなァ、そのあと喧嘩してあいつのカネ盗んだそうじゃねーか、あの人はいいモデルだったけど手癖が悪いからもう頼まないんですっつってたぜあいつ、そんなんで偉そうにオレに意見できる立場かァ?すっかりポーズを解いて食って掛かる飛段を角都も立ち上がって睨み返し、確かに金は盗った、と声を荒げる。だがそれは奴と俺との問題だ、貴様が口を出すことじゃない、よく聞け、カブトはモデルに薬を使う、人としての尊厳を守りたければ奴のところへは行くな、いいな。オレが何しようとオレの勝手だろ、と飛段も負けずに声を張り上げる。角都が本気で忠告しているらしいことはわかるが頭ごなしに怒鳴られては反発が先に立つ。飛段は角都に引き留められることを望んでいたが、こんなふうにではなく心を込めた言葉でそうしてもらいたかった。「お前がいなくなったら俺が困る」というような。そうしてカブトとの諍いも説明してくれれば角都に肩入れをするつもりだったのだ。しかし角都は飛段の気持ちを推し量ることなく自分の主張を怒鳴るだけだった。口を歪めた相手の顔を飛段は醜いと思い、それをそのまま言い放つと服を着て外へ出た。角都は追ってこなかった。駅までの遠い道のりを歩いて行かなければならない飛段の後頭部を、怒りと陽射しと後悔がじりじりと焼いていた。


→スケッチ13