ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・スケ17(trash)

なんだか仕事が混んでしまってウエ〜ンな日々を送っております。スケッチ話、お待たせするほどの内容でもないのに引っ張ってしまいました。とにかく終わらせねば!とガタガタ打ちました…とりあえずこれでおしまいにします。中途半端ですみませんm(__)m



<スケッチ 17>


 飛段から見れば角都の生活はどうにも味気ない。見聞きしたことから判断すれば、角都は朝六時に起きて夜十二時に寝るまで食事と家事と絵と読書とほかの必要なことしかしていないようで、つまり遊んでいないのだった。そんなことはない、と角都は言う。好きで本を読んで絵を描くのだし、庭先へ出て海を見ていれば飽きることがないのだと。そんなのは遊びじゃないと飛段は思う。非日常へ出て行かなければ新しいものが入ってこないだろ、オメーのやり方は慣れた場所をぐるぐる歩いて満足してる動物園のキリンみてーだ、違うか。
 角都が自分の提案に乗ったのは説得がうまくいったからに違いないと飛段は考えた。もしかしたら、たまにゃ外でヌード描くのもよくねぇか、という付け足しに惹かれたのかもしれないが、まあ結果オーライだ。行先は角都が決めた。がろう、と言われたので絵でも見に行くのかと飛段は思ったが峨滝と書くらしい。滝がいくつもあるところだと運転席の角都が説明する。整備はされていないから滝の下までの道はかなりきつい、だがそれだけに混みあうことはない、あそこでお前を描いたら面白いだろう。行先などどこでも良かった飛段だが、そう言われると俄然興味が湧いてきて早く滝を見たくなった。車は渓流沿いの細い道を走っていく。ちらちらと紅葉が見える。空はもったりと曇っていて、もう秋が深いのに珍しく気温が高かった。外で脱ぐにはちょうどいい気候だ。外出のために早起きをした飛段は腕組みをしてシートに頭を預けた。すべて順調、居眠りから覚めればそこには滝があるのだろう。
 ところが目覚めた飛段がまず目にしたのは立ち入り禁止の札である。山道の入り口を閉ざす木戸にぶら下がった札には、豪雨による増水のため、と書かれている。車は札と向き合って停められており、運転席の角都は、と見ればスケッチブックに鉛筆で飛段を描いている最中だった。滝、入れねーの。うむ。なんだせっかく来たのになあ。そうだな。短い会話の間も角都は目と手を休めない。モデルの仕事が身についた飛段はまた元の場所に頭を戻して目を閉じる。助手席を除く車の窓は開け放されているらしく、微風が額をなで、さわさわと水の音が聞こえてくる。滝が見られないのは残念だがこんな外出も悪くないし、とりあえずアトリエの外で絵を描くという角都の目的は達せられるらしい。そう思うとおかしくなり、飛段はシートにもたれて目を閉じたまま隣の男へ話しかけた。
「オメーはどこ行ってもオメーのまんまだな、絵ェばっかり描いてて飽きねぇ?たまにゃキスしたりとかしねーのかよ」
「それはさっきした」
 飛段は目を見開いて隣を振り向くが、角都はまったくいつもどおりの不愛想な顔でスケッチを続けている。やれやれ自分は何かを聞き間違えたらしい、でなけりゃ角都がこっちの言葉を聞き違えたか。ひとつ大きな呼吸をした飛段は、さりげなく誘ったつもりなのにうまく行きゃあしねえ、と内心で愚痴り、再々度シートへ頭を戻す。川の音に重なる葉擦れ、鉛筆のきしり、隣の身動きから生まれるほかの音。ぱた、ぱた、と空から雨粒が落ちてきてフロントガラスの上ではじける。今日は帰るしかなさそうだが、考えてみれば別に急ぐことはないのだった。ポーズと休憩が五セットで二時間。時間は今日もこれからもたっぷりあった。