ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

二つの月(ss)



相棒がうさんくさいほど真面目な顔で猿の親のように俺を抱いている。やせてきた月はまだ低く空気は冷えていて、俺は相棒の背後にある未明の空を見る。こちらを見下ろす顔の半分は月光にしらじらと照らされ、まるでそれ自体が発光しているように明るい。無風だ。あたりに散らばっているらしい死体のにおいが鼻をつく。いや、そのにおいは俺自身の胸元から立ちのぼっているようだ。俺は思い出す。不運と不注意から俺が死んだとき、相棒が奴の贄のものだった心臓を俺の胸に押しこんだことを。俺を抱く相棒の肩が規則的に動いており、そのたびに鈍く重い痛みが沁みてくる。眼球をできる限り下に向けると俺の胸に黒くほころびた穴が開いており、その中に相棒が手を入れているのが見える。心臓をじかに手で揉んでいるらしい。ものを言おうと息を吸うと、相棒の顔一面に黒い飛沫が飛び散る。オイオイ動くんじゃねーよ、といかにも暢気そうに相棒が言う。心臓がくっつきゃまた何でもできるんだから、今はもうちょこっとじっとしてろって、な、角都ちゃんよォ。わざとらしい作り声を聞きながら、俺は最期の光景になるのかもしれない空と、血で汚れた相棒の顔を見続ける。裏返りそうな目玉を戻し戻し、まばたきも惜しんで、滑稽なほど一途に。