ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

蚊と対等(ss)




今日も相棒のバイトにつきあわされてくたくたになり、たどりついた宿の布団にやっともぐりこんだら、プーンという羽音がオレの眠りの邪魔をする。もう十一月、セミもアブも見なくなって久しいのになんで一番厄介な蚊のヤローが生き残っているんだろう。こんな奴無視して寝てしまおうとオレは布団にくるまり直すが、蚊はしつこく顔の回りを飛び回り、ご丁寧にもかすかな風まで送ってくる。羽音がとまり、小さな足がオレの耳元に降り立ったので、そっと布団から出した片手でぴしゃりとそのへんを叩いてみるが、またちょっと時間が経てばなにごともなかったみたいにプーンと奴は飛んでくる。観念したオレは隣の相棒を踏みつけながら起き上がり、裸電球をひねって電気をつける。なんだ。蚊だよ蚊。短い会話を交わしながらオレはあちこち見まわすが、蚊はどこかに隠れて出て来やしない。多分警戒して隠れているのだ。しかたがない。電気をつけたままオレは布団に戻る。さっき起こした相棒がこっちを見ている気配がするがオレは蚊で忙しいから放っておく。しばらくそのままでいると、おい、と相棒が話しかけてくる。灯りは消さないのか。暗くしたら蚊を見つけんの大変だろが。見つけるってお前、目を閉じていたら見つけられるわけがないだろう。ハァー、オメー頭わりーな、こっちが寝てるって思わなかったら蚊の奴も寄ってこねーだろ、こうやって寝てるふりして油断させてんだよバーカ。ちょっと間をおいて、そうか、と相棒が言う。納得したんならさっさと寝ればいいのに、薄目を開けてみたらヤロー片肘ついて面白そうにこっちを見ている。おい飛段、眉間にしわが寄っていると蚊が不自然に思うかもしれんぞ、ああ、鼻ちょうちんを出したらもっと寝てるように見えるかもしれんな、どうだ。ふん、とオレはかたく目をつぶる。眉間のしわは確かに改善すべき点かもしれない、けど鼻ちょうちんはないだろ!蚊がかえって怪しむっつーの!