ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

対抗意識(ss)



茶屋の店先の縁台で餅をかじりながら、飛段は道向こうの別の茶屋にいる忍びを眺めている。大柄な若い女で、色気のない中忍装束を身に着けているがなかなかの美人だ。隣に座るネコ科の動物は使役獣なのだろう、黒い毛皮の中で目だけを光らせている。女もじっと飛段を見ている。若く見目の良い男女が互いに見惚れるのは当然のことだろう、と飛段のすぐ隣に座る角都は考えた。面白くはないが相棒の心まで思うままにはできない、自分は神ではないのだから。無関心を装って茶を啜った角都は、ふいに頭に手を置かれて熱い茶に鼻を突っ込んでしまい、慌てて茶碗を顔から遠ざける。見れば、飛段は相変わらず女に目を向けており、女の方は片手で黒い獣の頭を撫でている。女が獣に食べ物を与えると、飛段も大急ぎで自分の食べかけの餅を角都の口元に押しつけてくる。角都は、ああ、と納得し脱力する。こいつは女に見惚れているのではなく、女と張り合っているつもりらしい、なぜそんなことになったのかは知らんが本当に馬鹿な野郎だ。呆れつつも、押しつけられた餅をとりあえず食べてやりながら、角都は道向こうの獣を見る。きろり、と緑の目が緑の目を見返す。どちらも自分の相棒の方が美しいと思っている、そんな目だった。