ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

新年4(ss)



不死を得た高揚感が消え、先々に思いが至ってさむざむしい孤独を噛みしめていたとき、オレは死なずに生き続ける男の話を聞いた。まず、それがどこの誰なのかつきとめるまでにずいぶん時間を費やした。男は実体のない伝説のようであり、噂を聞きつけたオレがそこへ急行しても既によそへ行ってしまった後なのだった。何度もそんなことがあってさすがに腐ってきたころ、オレは屠ろうとした贄に逆襲され、何本ものチャクラ刀で体を岩に釘づけにされて動きが取れなくなってしまった。しかも不死を怪しんだ相手がオレを自分の里へ連れて行くなんて言い出したものだから、少し慌てた。死ぬ選択肢はないから生け捕りにされるしかないし、体をばらされたりしたら逃げ出すこともできなくなる。オレの負けだから今回は見逃してくんねーか、と相手に持ちかけていたとき、黒コートの白頭巾が道の向こうから歩いてきて、そしてオレの相手を縊り殺してしまった。死んだ奴の名誉のために言っておくが、オレとのやりあいでくたびれてなかったらあんなにたやすく殺されたりしなかっただろうと思う。腕の立つ奴だったから。けれども現にそいつはヨレヨレに疲れていて、たまたまそこに白頭巾が来たので、まあ運が悪かったのだ。白頭巾はあっさりそいつをやると、袖から帳面(ビンゴブックだった)を出し、つまらなそうにページにバツをつけた(後で聞いたら値段が安かったらしい)。岩に貼りついていたオレはさっきとは別の意味で慌てていた。これはうわさに聞いていた死なない奴に違いない、装束も目の色も腕の縫い目も刺青もみんな一致している、本物だ!オレはあいつに話しかけた。確か、このチャクラ刀を抜いてくれ、と言ったんだと思う。ずっとテメーを探してきたんだがこんな恰好じゃ話ができないからと。白頭巾はオレをじっと見て、それからフンと言った。貴様賞金首じゃないな。それきりこっちを見もせずに死体の襟首をつかんで背負いあげ、もと来た道を帰って行こうとする。大いに焦ったオレが話を聞いていけとわめいても素知らぬ顔だ。おいコラ無神論者め、カネばっかり追っていると神のバチが当たるぞ、と怒鳴ってやったときだけ面倒くさそうにちらりと振り返り、貴様だけではなく誰のこうべにも神は宿っている、そしてカネが俺の神だ、と答え、みるみる遠ざかっていった。動けないオレはそれを見送るしかない。じたばた暴れて傷を広げ、刀からやっと逃れても、もげてしまった片脚がくっつくまでは移動できず、白頭巾の後を追い始めたのはそれから丸一日も後のこと。欲しい、という気持ちは手に入らないことで盛り上がるのだとオレはつくづく悟った。自分のものにしてしまえばすぐにつまらないものになってしまうのに、焦らされると欲しくて欲しくてたまらなくなる。その後オレは白頭巾が属している組織を調べ、まんまと奴の相棒におさまった。飽きたらまた新しい不死者を探して乗り換えるつもりで。あれからもうずいぶんたつがオレはこいつに飽きていない、というかまだ手に入れていないので飽きようがない。今年こそ、とオレは左やや前方を歩く男、新年も何もなく金儲けに励む我が相棒を睨んで念じる。今年こそこれを手に入れて、さっさとつまらないものにしてやろうじゃないか。