ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

気の持ちよう(ss)



 氷雨の降る中、飛段は迷路のような市街をうろついた。半分道に迷っているのだが、それを認めるのは情けないので怒りの矛先を相棒に向けていた。どこ行っちまったんだよあの野郎、ちっと遅れたって待っててくれりゃいいだろ、こんな夜中にくそ寒い中歩かせやがって。粗末な簡易宿泊所の看板が道端に出ている。飛段はそれを横目で見た。薄情な相棒など放っておいて一人で泊まってしまおうかと考えてみたが、自分がそうしないだろうということもよくわかっていた。この寒空の下できっと角都も自分を探している。街までずっと歩いてきたときには気にならなかった疲労が足をこわばらせた。寒さのせいだろうと飛段は考えた。
 球が切れている街灯の角を曲がると、市街を囲む城壁の塗りつぶしたような黒い影が前方に広がった。たた、と壁上の厚い旗がはためいたのを相棒のコートの音だと思った飛段は不規則な石畳の上を走り、城壁にたどり着いてからそれが誤認だったことに気づいた。一瞬忘れていた寒さが戻ってくる。踵を返し、もとの街路に戻ろうとしながら飛段は大きく身震いした。さっきは短く思われた市街と城壁を結ぶ道のりは、やけに遠かった。