ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・Co8(trash)



<カンパニー 8>


 もともと角都は商談のためにこの国へ来た。駆け引きに長けた英語の堪能なビジネスマンとして自分は重用されていると角都はわかっていたし、この不景気の中でもまずまずの利益を上げている会社の中枢で働いていることにも満足していた。会長が道楽で始めた出版部門が赤字を出していることを知ってはいたが、今年の文芸新人賞をとったハタケカカシが発行誌のひとつに寄稿を始め、そこに添える写真の手配が自分に振られてくるまでは、それを我が事として真剣に考えたことはなかった。
 今、発売から一週間後に新刊が角都の手に届く。都会ならデータで受信できるのだが、インフラが整備されていない地では現物送付が一番確かな方法だ。薄暗い郵便局から表へ出てきた角都は、私書箱から受け取ったばかりの雑誌をぺらぺらとめくって写真の印刷具合を確かめ、それを通訳兼ガイド兼運転手へ渡す。若い女のグラビアもあるし捨てるにはもったいないからなのだが、自分が撮った写真を自慢したい気持ちも多少はあった。わざわざフィルムカメラを使ったのは無茶振りをする会社への嫌がらせだったのだが、現地のフィルムで撮られた写真は黄味が強く粒子も粗く、一昔前の景色のような面白い仕上がりとなっていた。どうだ、と感想を求める角都に運転手は、まあまあじゃねーの、と気のない返事をする。だが渡された雑誌は必ず持って帰る。若い女のグラビアが目当てなのだろうと角都は考える。雑誌に添えられた手紙によれば、売り上げは悪くないらしい。