ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・Co9(trash)

年度末、仕事がのしかかってきまして、朝起きて仕事行って帰宅して即寝るなんて生活してましたら体重が増えました。おお…。それでも起床時と就寝前の角飛サイト様めぐりは欠かしません。皆様、いつも活力をありがとうございます。


<カンパニー 9>


ハタケカカシの随筆は好評らしく、新しい号のための写真の注文が角都の元へ届くが、それらにはもれなく他の業務連絡が添付されてくる。撮影対象がどんどん追加されるとはいえ写真を撮るのに要するのは月にせいぜい数日のこと。会社としてはこの機にプロジェクトを迅速に進めようとしているのだった。よって角都はたびたび首都へ移動し、打ち合わせに時間を費やした。決断力のある有能な社員を頻繁に話し合いに向かわせることで会社は好感度を上げようとしたのである。現地の言葉しか通用しない場合もあるので、角都は打ち合わせに専属の通訳を同行させた。がさつで語彙の少ない通訳はそれでも最低限の仕事はしたし、気を使う必要がまったくない分角都にとっては楽な相棒なのだった。ある日、プロジェクトの協賛団体との会議後に接待を受けた角都は、その幹部の一人から控えめな誘いを受けた。相手はこの国によく見られる睫毛の異様に長い青年で、蜂蜜色の頬に縮れた髭を生やしていた。髪も密生しているし毛の濃い男だなと考えていた角都は通訳の言葉を軽く受け止めた。自分を親密な相手として見てはくれないか、という願いを仕事上の世辞と解釈したからである。こちらこそよろしく、と言った角都に通訳が、オイオイいいのかよ、と言う。こいつオメーが好きだって告ってんだぜ。バカを言うな。いやホントだって、ここじゃ男同士でくっつく野郎が多いんだ、戒律が厳しくて女と付き合うのが難しいからな。くだらん、と一蹴しようとした角都だが、熱心な相手のまなざしにふと不安を感じ、個人的な関係を望んでいるのか、と確認をしてみる。毛の濃い男は首を横に振る、だがこれは肯定の身ぶりだと通訳が言うし、それが正しいことを角都も知識として知っている。先方の団体は高額の出資元であり、青年は代表者の見内だ。うろたえた角都はとりあえず嘘で逃げようとする。ご好意はありがたいし光栄に思う、だが残念なことに自分には既に相手がいる、同時に複数の相手と付き合うことは自分の理念に反するので申し訳ないがこの話はなかったことにしてほしい。あなたの故郷にパートナーがいても所詮は遠い国のことでしょう、と青年が言う。あなたは頭が良いし魅力的だ、経験も積んでおられる、この国にいる間だけでも自分にいろいろ教えてもらえれば嬉しい。言葉を仲介する通訳が首を振っているが、あれは頷いているわけではなさそうだ。角都は咳払いをして再び数秒をかせぎ、そこで思いついたセリフを口にする。果たして相手は面を暗くし、ややうなだれて角都から離れていく。あーあァ、と通訳が言う。せっかくの玉の輿だったのにもったいねえなあ。角都は通訳を無視してぬるくなった酒を飲み干し、礼を失することがないよう先方へ挨拶をするとその場を辞した。表へ出てから大きく息をつく角都を通訳が面白そうに眺める。ま、うまく断れたんじゃねーの、それにしてもオメーとオレがつきあってるとは知らなかったぜ。ああ、と角都は疲れた声を出す。俺も初耳だ。バイクにまたがり運転手に戻った通訳がゲハハと頭の悪そうな声で笑う。なあオメーほんとはオレのこと結構好きなんじゃねーの、オレぁいいぜつきあってやっても、ゲハハそう照れんなってェ。調子に乗る運転手の脳天に重い拳固を落とすと、角都もバイクのリアシートに尻を据える。常宿のある僻村まで約二百キロ。都会の高額なホテルに泊まりたくなければさっさと出発するべきだろう。