ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・Co11(trash)



<カンパニー 11>


この国では飲酒が禁止されていると角都は考えていたのだが、それは誤解だったようで、いいから寄って行けと強引に連れ込まれた部屋には自家製ではあるものの蒸留酒の瓶が何本も並んでいた。酒だって神様がつくったんだぜ飲んで悪いわけねーだろゲハハ、と通訳兼ガイド兼運転手が都合のいい理屈を並べる。角都とて飲むのは嫌いではない。乾燥したこの国では日中の暑さが嘘のように夜は冷えこむのだが、小さな部屋で香辛料だらけの料理をつつき蒸留酒を飲むうちに角都は汗をかき始め、しまいにはシャツの前を開き腕をまくった。相手の飛段はとうに上半身裸になっており、ぽっぽと上気しながら気持ちよさそうに宗教の話をしている。コショウがこびりついた肉の塊をかじって酒を飲み、また肉をかじって飲むうちに、角都は自分が酔ってきたのを感じた。しばらく酒を絶っていたせいか酔いが早い。料理がうまいんだな。オレじゃねーよ、こりゃ隣のおばちゃんだ、最近オレがマジメに働いてるもんだからおばちゃんもご機嫌でよォ、前はしょっちゅう真人間になれって怒ってたのに今じゃにこにこして差し入れまでしてくれんだぜ。それでよォ、それでよォ、と脈絡なく続いていく話をつまみに角都は飲み続ける。なにやらふわふわといい気分だ。と、飛段が自分語りをしつつ床をいざって近づいてくる。昔はよー何やってもホントじゃねーみてーでさ、遊びに行っても仕事してても作りごとみてーな、そういう役割だからやってるみてーな、そんな感じだったんだよな、けどここ来てさー身振りでも何でも誰かとやり取りしねーとメシは食えねーし部屋もねーし、けどみんな何かしら恵んでくれるから何とか生きていけるし、そしたらすげー超生きてるゥ!って感じがしてよォ、あーでもオメーはそんなこと考えねーんだろうなァ、あの国でうまくやってんだもんなァ。すぐそばまで寄ってきた飛段は角都のはだけたシャツの前から手を入れてきた。想像していたよりも冷たい手が角都の皮膚をなぞる。オメーの縫い目すげーのな、腹にまであんじゃん、なんだよこれ。ケガの痕だ。そんくらいバカでもわかるぜ、何のケガなんだよ。耳元で尋ねられ、腹の縫い目に触られた角都は、自分でも思いがけないことに本当のことを話しだす。まだ若かったころ、学生だったころにな、学校の助教授の学説に俺は反論し徹底的にやりこめたのだ、俺を論破できなかったその男はある日俺をゼミ室に呼び、一服盛ってから、ゆっくりと体中を切り裂いた、死ぬ前に発見されて俺は病院送り、奴は刑務所へ送られたんだが、それから奴がどうなったのかは知らん、多分また学校へ戻ったんだろう、学問しかできん男だったからな。おいマジかよ超やばくねーかそれ、と返しながら飛段は角都の胸を両手でなでる。縫い目を辿って背中へ、また前へ。角都は角都で飛段の桃色の体を見ている。二つの乳首の間に杭でいくども突かれた痕があり、タコのように固くなっているそれに角都は触れてみる。お前、ここを押すと気持ちがいいのか。押したぐれーじゃダメだぜ、ブッ刺すつもりでやらねーときかねーな、あっちょっ待て、今日はオレがオメーをやるつもりで、おいこら。その後、降参した飛段が「きもちいい」ことを認めるまで角都はあちこち押したり刺したりしてさんざん楽しんだ。かつて角都を愛し妬み傷つけた男についてはちらりとも思い出すことがなかった。