ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

独語・Co16(trash)

仕事が押し寄せてきて身動きが取れなくなりました;;4月から異動です。まったく違った分野へ動くので不安がいっぱい。今まで汚く使っていた机を掃除せねば…(←これは仕事以前の問題)
カンパニ話もどうにかせにゃと思っとります。打ちっぱなしなのであとで直すかも^^;次ぐらいで終わるといいんですが。



<カンパニー 16>


 当初の計画よりも早く事業買収のめどがついたのは角都の尽力によるもの、と本社からのメールにはあった。評価を意味しており、角都もこれには異存がない。しかし、契約締結に伴い急ぎ帰国し通常業務に戻るようにと結ばれたメールには雑誌用の写真について何も触れておらず、角都が確認を入れると、今まで撮りためて送ったもので今後は対応するとの短い返信があった。ハタケカカシの人気が落ちてきたのか雑誌部門が整理対象になるのかわからないが、件のエッセイへの意気込みは社内ですでに薄れているらしい。目立つ気候の変化がない国で時が経つのを忘れていたが、考えてみればあれからもう半年、流行も変わるのだろう。
 通訳兼ガイド兼運転手とは空港の駐車場で別れた。気をつけろよ、とあっさりしたものだった。顔も姿も変わりがないのにどこかいつもと違うようで、角都は相手をまじまじと見た。
「あーあこれでまたプー太郎だなァ、おばちゃんに叱られちまうぜ」
「空港で客待ちをすればいいだろう、お前は考え無しなところがあるがガイドとしては悪くない、あの国からの客をつかまえればいい稼ぎになるぞ」
 飛段は薄く笑ったのみで答えず、このためにレンタルしてきた四輪車のトランクから角都の荷物を出し、もう行けよ、と言った。早くチェックインしねーと他の奴に席取られるぜ。
 十数時間後、母国の空港に着いた角都は部下と合流し、ラウンジで簡単な打ち合わせを行ったあと、車で本社へと向かった。何を尋ねてもてきぱきと答える有能な部下はまったく無駄口を叩かず、角都は自分が馴染みの世界へ帰ってきたことを実感した。角都の報告は部下の端末によってすぐに本社へ送信され、数分後にはその返信も届く。効率のよい社会では最小限の会話でことが進む。
 車の後部座席で、部下に渡す契約書の原本を取り出すために膝の上のアタッシュケースを開いた角都は、そこで動きを止めて少し考え込んだ。無表情な部下は、それでも角都をねぎらうつもりなのか、お疲れでしょう、と気遣いを見せた。
「今日は実務的な打ち合わせのみですのでお早くお帰り頂けるはずです」
 気にするな、と返した角都はアタッシュケースの中に紛れ込んでいたペンダントをズボンのポケットに滑り込ませると、契約書を取り出して部下に手渡した。紙の束は、ひとの手に渡るときに元の持ち主の指を切り、それに気づいた部下は自分の名刺入れから取り出した絆創膏を角都に差し出した。
「いらん、すぐに治る」
「でも書類が汚れますから」
 ふいに角都は思い出す。つい昨日までいた国では小さな傷を作ったりすると、通訳が、小便をつけると治りが早えんだぜオレぁいつだってそうしてるぜ、なんならオレのをつけてやろうか、などととんでもないことを言い出して角都を辟易とさせていたことを。そうして後々まで、もう治ったか、痛くねーか、とやかましく騒ぎ立てていたことを。長い出張から母国へ帰り着いたはずの角都は、なぜか自分は遠いところへ来てしまったのだと感じ、それを払拭するためにわざと音を立ててアタッシュケースを閉めたのである。