ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

耳を貸す(ss)



蒸し暑い宿の部屋で浴衣を引っかけて帳簿をつけている角都に、暇をもてあました飛段がちょっかいを出してくる。うるさいと叱られてもやめようとしない。くだらない暇つぶしにつきあうつもりのない角都は、話しかけられても小突かれても徹底的に相手を無視する。飛段はしばらくブツブツ言っていたが、やがて相棒のそばににじり寄ると片耳をつかんで引き起こそうとする。角都は意地でも立たず、飛段も諦めない。強く強く引っぱられた耳はとうとう接着剤が剥がれるような音を立てて頭から離れ、地怨虞を長く引きながら角都から遠ざかっていく。開け放した窓辺に座った飛段は手の中の耳をいじり、ときどき思いついたことを耳にささやいたりして遊んでいる。飛段はそれなりに満足らしいが、角都は内心複雑だ。相変わらず帳簿に向かっているのだが、甘やかされる耳の感触や妙に近いひそひそ声が気になって集中できない。意固地を通した今、簡単に折れるわけにはいかないが、角都だって本当は飛段と遊びたいのだった。全身で。