ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ねずみじょうど(ss)



真夜中の道中、崖のふちを歩きながら握り飯を食ってたら、うっかり落としてしまった。あっと手を伸ばすオレの襟首を角都がつかむ。半分になった握り飯は岩の上をはずんでヒョオーと風が吹く下界へ消えていく。角都が特別たっぷりふりかけをまぶしてくれた握り飯だったのに。雨に降られて寒いし疲れたし握り飯は落ちちまったし、しかもそれは一番楽しみにしていた握り飯だったしでオレは一気に悲しくなるが、角都はお構いなしに早く来いとせきたてる。足元の悪い暗がりを相棒の白い頭巾を目印に歩きながら、オレは握り飯のゆく末を考える。ばらばらに散ってしまった飯粒は早起きの鳥がついばむだろうが、少し大きなかたまりは野ネズミの巣に運ばれ、ネズミ王の食卓に載るかもしれない。ふりかけたっぷりの握り飯をネズミ王はほめたたえるだろう。ネズミの国はおまつりだ。それだけの価値のある握り飯だったからな、とオレは惜別の辞をつぶやき、相棒の後を追う。北風は少し弱まってきたようだ。明日は晴れるかもしれない。