ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

言葉(ss)




角都が孤独死という概念をバカにする。生きる覚悟も死ぬ覚悟もできていない奴が使う言葉だ、誰もあの世にまでは同行できん、死はすべて孤独だろうが。飛段はあいまいに、んー、と言う。角都の言う孤独が状況ではなく人の内面を指しているということはわかる。けれども、もし角都が自分を殺してくれたならそれは孤独死じゃないような気がする、と思ってもいる。



いつもの小言を言う角都に、オイオイそんな口うるせーことばっか言ってると将来ろくでもねえ因業ジジイになっちまうぞ、と飛段が返す。角都は虚を突かれたように黙り込む。言い負かされたのではなく、この歳で将来の心配をされるとは思わなかったのである。



飛段が見つけた温泉を堪能しながら、角都が相棒をほめる。お前と組めて俺はまったく果報者だ。温泉ぐらいで安い野郎だぜ、と飛段は笑う。角都は気にしない。それどころか同じセリフを繰り返しさえする。チャンスはあまりないのだから言いたいことは言えるときに言っておかなければならない。



手ひどくやられた角都が倒れたまま起き上がらず、飛段はちぎれた上半身を引きずって相棒のそばまで地面を這い進む。なんだァテメーまだ心臓動いてんだろが、死んだふりして怠けてんじゃねーぞ角都ゥ。そう言った自分の声を聞いて飛段は息を詰める。べそをかきそうなのとかいてしまうのではずいぶん違うから。



飲み屋で働いているんですから酔っぱらいのバカ騒ぎには慣れてますけど、昨夜の客にはほとほと参りました。注文もろくにせず、個室から漏れてくるのは「お前は俺が殺してやる」「やれるものならやってほしいぜ」などとぶっそうな言葉ばかり。しまいにはウーンとかグエッとか変な声まで聞こえてきたので、私、間違えたふりをしてふすまを開けてみたんです。そしたら…。ああ、私はなんてものを見てしまったのでしょう!あの人たち二人とも丸はだかで、しかも後ろから交わっていたのです!