ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ぽっちり(ss)



往来の、踏み荒らされてでこぼこになった雪の上を角都と飛段は歩いていく。寒さにさらされて地面に凍りついた雪は岩のように硬い。真昼なのに薄暗く、寒気は針のように肌も刺し、眼球や鼻孔のわずかな水気をきりきりと絞る。吹きつける風の中で角都は目を眇めた。ごろつく異物が目の中に飛び込んできたのだ。歩みののろくなった相棒を飛段は振り返る。なんだァ、目ェどうかしたか。フン、と不機嫌に唸った角都は立ち止まり、片目をしばたたかせる。飛段は角都のそばへ戻ると伸びあがり、片手で相棒の頬を押さえて親指で下瞼を引き下げる。角都の眼球は赤黒く、異物を見つけるのは難しい。しげしげと眺めていた飛段はぐいと力を入れて相手の頭を自分の口元へ引き寄せ、問題の目玉を舌先でなぞった。ゴミを取り除くと閉じた瞼の上を唇で押さえ、余分な涙をすする。角都はおとなしく俯いて飛段の好きにさせる。どこもかしこも灰色の冬の中、角都の右目の上にだけ少し早い春が訪れている。