ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

魘される(ss)



宿のおやじが「なかなかいいお道具をお持ちで」と世辞を言いながら舌をぺろぺろ出したりするんでキモいと思って殺したが、殺した後でそいつはオレの後ろに立ってたんだから舌ぺろぺろが見えるわけがないと気がついた。斬り倒した死体は黒い廊下に横たわり、血がどんどん流れ出している。廊下の奥が暗くて見えず、オレは引き返そうと考える。湯の花の匂いがしていらいらが募る。こんな里の奴らは皆殺しにしてやろう、そうだオレは殺す、神がそのように定めているのだから。濡れた鎌を握ってオレは宿からの出口を探す。暗い廊下のすぐ外には椿がうっそうと茂っており、ガラス窓に押しつけられた黒い葉の中に腐れたような赤い色が見え隠れしている。かち、かち、と時計の音が耳障りに響く。曲がっても曲がっても廊下は続いており、オレは何度もおやじの死体をまたぎ、同じ座敷の襖を開く。誰かがついさっきまでいたような、誰かがすぐに入ってきそうな気配。おやじではない、あれを殺したのはずいぶん前のことのような気がする。他の誰かがいるならそいつを殺せと敬虔なオレの頭脳が命じる。襖を蹴倒しても前にあるのはやっぱり暗い廊下で、だが奥の角を誰かが曲がっていくのが目の端に映る。白い頭巾。鎌を放ちながらオレは大声でわめく。長々と。相棒がオレを叩き起こすまで。