ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

花の酔い(ss)



相棒が奮発して買ってきたほのかに花の蜜が香るとろりとした酒を飛段は存分に飲み、気持ちよく酔っぱらった。酒がめぐってふわふわしている飛段が、なーおめーオレと組んでどうだったよ、と尋ねると、珍しく角都がはぐらかさずに答を返す。言葉少なに、でも順を追ってしっかりと。飛段は調子よく頷いているが、したたかに酔っている今は相手の言葉に追いつけず、次第にもどかしくなってくる。めったにないことなんだから言葉の一つ一つまでちゃんと聞いて覚えておきたいのに。焦れた飛段は角都に身を寄せて言葉を感じ取ろうとし、それでも足りないので頭を相手の肩にのせ、振動となって伝わってくる低い声にあやふやに安心する。にぶく靄のかかった飛段の頭の中でとりとめのない考えが飛び回り、火の粉のように光っては消えていく。

去年もこの木の下で野宿をしたような気がする、桜はいつも桜、空もいつもと変わらない、でもこの桜は今日の桜でしかないし、だとしたら空も今日の空でしかない、それにしても角都の声は気持ちがいい、風や水の音のようだ、けどこれも今日の角都、いやこの瞬間の角都でしかないのかもしれない、惜しい気もするが古いものが終わらないと新しいものも始まらない、花が散ってまた咲く、食ってクソしてまた食う、数えきれないほど繰り返されれば一瞬も永遠と同じだ、ところで角都は今何を話しているのかな

あたたかい背に寄りかかった飛段は、ときどきうんうんと相槌を打ちながら理解できない相手の声にじっと耳を傾けている。意味がないようにも見えるが、さしあたって今の飛段はそれで満足なのだ。角都も。