ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

放蕩息子(ss)



飛段が一人で出かけ、それきり音沙汰もなかった。その間角都は単独で仕事を請け、ときには遠くへ移動もし、特に不自由もなく暮らしていた。周囲が飛段の不在に慣れてそれを口にもしなくなってきたころ、角都が逗留していた宿の玄関にひょっこりと飛段は現れた。吹き降りの表は暗くて見通しもきかず、夜半のずぶ濡れの客に宿の主人が驚き呆れるなか、呼ばれて顔を出した角都にヨオと声をかけると飛段は靴を脱ぎ、廊下に濡れた足跡を残して角都の部屋へ入って行った。角都は怒っているより心配していて、飛段はただいまと言っていいものか判断できず、二人はほとんど会話もないまま共同風呂をつかい、狭い湯船に並んで入った。湯はぬるく、上がれば寒さが肌にまとわりついた。長く湯に浸かる二人の頭上、板張りの天井の一角から水滴がさかんにしたたり落ち、飛段の頭にひたひたと当たって飛散した。たまたま結露がたまる場所なのか、あるいは雨漏りなのかもしれなかった。まっすぐに落ちてくる水滴を脳天で受け続ける飛段はとても間抜けに見えた。しばらくそれを眺めた後、角都は相手の頭を片手で引き寄せ、乱暴になでて水気を払った。飛段が大好きな大きな手で。