ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

うぶな思い出(ss)



角都と組んで間もなくのころ、オレは宿でヨレヨレにくたびれた雑誌を読んでいた。ちょうど今ごろの季節だったと思う。外は雨だしテレビもないし角都と話が合うわけでもないしで他にやることがなかった。悩みごと相談のページに「七十代の舅の部屋を掃除していたらタンスの上にいかがわしい本がありました。気持ちが悪くて舅の顔が見られません」という話が載っていた。後ろにいた角都におめーもそーゆーの読むのと訊いたら、奴はオレの肩越しに雑誌を覗きこんできた。風呂上りであったかい肌の匂いを立てていて、鼻にしわを寄せてふっと笑った。振り向いたオレの目のすぐ前で。チューできる距離だったがオレたちそんな仲じゃなかったし、だから今でもあの横顔を思い出すたびにどぎまぎするんだと思う。奴の「いかがわしい本」どころじゃない生涯現役ぶりを知ったのはその後のこと。あのころはオレも若かった…。