ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

ほぼ二分間の勝負(パラレル)(ss)

ウェブでタンゴの動画を見ててムラムラして書いたものです。知識も何もなく。いつものことですがすみません。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。


ウェイターの給料がお粗末なので、オレは街角やプラザでタンゴを踊って日銭の足しにしている。知り合いの女と組むことがほとんどだが、声がかかればそのへんの観光客とも踊る。どいつもこいつも下手くそでチップをはずんでくれる。適当に踊ればいいんだからこれはうまい仕事だが、最近は角都とかいう同業の野郎に客を取られがちで面白くない。なぜだ。オレの方がいい男だと思うんだが。組んで踊る女にそう言ったら、そいつは哀れなものを見る目つきでオレを見て、そう思いたいんなら思ってなさいよ、と言った。なんだとこの腐れアマ、と言い返したら女は煙草を俺に向けて弾き飛ばし、カツカツと足音を立てて広場を突っ切ると、そこで営業していた件の野郎に誘いをかけて一曲踊りやがった。これ見よがしに。女についていったオレは野郎がチップを受けるために置いた帽子のそばにしゃがんで金を入れにくくしてやりながら、奴の踊りをじろじろと観察した。たいしたことはない。一歩がオレより大きいのは足が長いからだし、女を軽々回すのも力が強いからに過ぎない。ケッと思っていたら、踊り終えた野郎がオレのすぐそばまで来て、何の用だ、と言った。オレはゆっくりと立ち上がった。角都はオレよりもでかく、さらにあごを上げているので、見下され感がハンパなかった。
 別に用なんかねーよ。
 ふん、てっきり教えを乞いに来たのかと思ったが。
 んなわけねーだろバーカ。
 それは残念だ、女の扱いを心得れば貴様の下手なタンゴもちょっとはマシになるだろうに。
 昼でも夜でも女から文句を言われたことはねーぜ。
 そうだろう、何もわかっていない奴に物申すのは女にとっても時間の無駄だからな。
これには頭にきた。なんだとテメーと凄むオレに角都は、なら俺と踊ってみろ、女のことがわかっているなら女のステップぐらい踏めるだろう、とわけのわからないことを言ってきた。オレにできねーと思ってるんなら大間違いだぜ、と答えてからあれーなんでこんなことにと思ったが出した言葉は取り消せない。しかたなくオレは奴のスペースに入る。奴は突っ立ってただ待っている。いちいち癪にさわる野郎だ。大股に近づいたら急にこちらの足元につま先を突き出してきた。躓きそうになったオレがとっさに上げた手を奴が握る。ムカッとして体を離そうとしたときには奴の右手がオレの背に回っている。奴が下がるのでオレは進む。一歩、二歩。バンドネオンが鳴りだす。デイダラの奴だ、あの野郎ふざけやがって後でぶっころす。と、角都が前へ動いた。そんなに早い動きではないが体が大きいので圧迫感がある。間を守って下がると奴の足がもう外側へ出ていて体が入れ替わる。完全にリードされているのが気にくわなくて踏ん張ると、背に回っている奴の手が深く入り、股の間に奴の足が割り込んできて、あっと思ったときには背が反っていた。女みたいにのけぞるなんてみっともねえ!あわてて後ずさるが、奴はきっちり追ってきて、三歩目にはもう外側にいてオレを受け止める。その場は逃がすが退路が断たれている感じ。確かに女にはこういうのが効くのかもしれない、だがオレは男だ。オレは奴の足をまたいで無理やり外側に立ち、束の間の優越感に浸った。もう女のステップなんて知ったこっちゃない、オレのペースで一歩一歩押してやる。奴は少し引くが、すぐにターンを入れて主導権を握ってしまう。焦れたオレはまた強引に体を入れ替えようとしたが、相手の足をまたいだところで背を引き寄せられ、ぶざまにも奴の太腿に乗ったリフトをきめられてしまった。まわりで見ている連中が手を打って笑っている。確かに男二人で踊るオレたちはさぞ滑稽に見えるに違いない。考えたらおかしくなってきてオレまで笑ってしまった。笑いはいくらでも湧いてきて、もうステップなんかぐだぐだだ。幸いデイダラが弾いてたのはたいして長い曲じゃなく、それももう終わりかけている。最後に角都はオレを腕に巻き込んでぎゅっとホールドし、ポーズをきめた。こいつも冗談がわかる奴だと思ってヒーヒー笑っていると、耳元で角都が、お前なかなかやるな、と言ってくる。俺をリードしようとするとは面白い野郎だ、体の相性も悪くないし、どうだ、退屈はさせないからちょっと遊びにつきあわんか。いいぜ、とオレは笑いながら返す。さっきまで笑っていたまわりの連中が妙に静かになっているがきっと笑うのに飽きたんだろう。おい飛段、とデイダラが呼びかけるのをスルーしてオレは角都と歩き出す。寒いからか角都はオレの肩をしっかりと抱いている。こんなところまでエスコートしようとするなんて、しかもそれを他人に見せつけるなんてお茶目な野郎だぜ。そう思ってオレはまたげらげらと笑ったのだ。