ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

運送2(暁カンパニー)(ss)



出発して六時間後、誰かほかの者を連れてくるべきだったと角都はほぞを噛んでいる。混雑はしかたがない、年末なのだから。だがしょっちゅう喉が渇いただのションベンしたいだのと隣で騒がれるのは癇に障る。小南なら完璧なリードをしたろうし、キョウヤかギンジならナビを務めつつ運転手への気配りもできただろう、そりの合わない人事部長でも道案内の役ぐらいには立ったはず。おい本当にこの道でいいんだろうな、と角都は繰り返し念を押す。オレを信じろ、ほら、と飛段営業部長がスマホのカーナビアプリ画面を運転手の目の前に突きだす。確かに町を通り抜けるこの道が一番の近道らしい。だが一般乗用車ならいざ知らず、全長十メートルを超える車両で入り組んだ道を走るのは容易ではない。背後には後続車が長い列を作り、対向車も迷惑そうにすれ違う。狭い角をゆっくり曲がりながら角都はちらりと時計を見る。到着予定時刻はとうに過ぎているが、町を抜けて川を渡れば支社は目の前だ。あと少しと自身を鼓舞して細い坂道を下ると川と橋が見えてくる。と、角都の口から、んんんんん、とうめき声が漏れ、トラクターが歩道すれすれに幅寄せされて停まる。おい、あの橋の耐荷重を調べろ、今すぐにだ。常にないせっぱ詰まった声に飛段は急いでスマホをいじる。耐荷重が八トンと告げられた角都は数秒間まばたきもせず硬直する。ハザードランプを点けたトレーラーの前後に車がたまりクラクションが鳴らされる。引き返すぞ、回せないからこのままバックだ、お前降りて誘導しろ。おいおいなにびびってんだよまっすぐ行けよ。バカ野郎こっちは二十五トンだぞ、橋を落とす気か。一気に行きゃあ行けるだろ、勢いつけて一気にシュッっと。部長、と角都は低く相手を遮る。ではお聞きしますが、部長のケツに俺のナニを同時に三本突っ込んだらどうなりますかね、やはり勢いつけて一気に行けばいけますかね。飛段は自分へ向けられた充血した目を見て、一度開いた口を閉じ、改めて口を開く。課長、オレ誘導しますんでバックお願いします。そこで角都は自分の防寒着を飛段に渡してやる。間抜けなことに営業部長は薄手のシャツとスーツ姿で真冬の出張に出てきたのである。


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