ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

運送3・新年8(暁カンパニー)(ss)



支社ではいっときの喧騒がおさまり、工場はいつもの音を立てて稼働している。荷降ろし場に斜めに停められたトラクターの運転席にはスーツの腕をまくった角都、助手席には防寒着にくるまり鼻先と頬をしもやけで赤くした飛段が死んだように座り込んでいる。ほかには誰もいない。一度、企画部長が事務所へ入るよう促しに来たが、二人の様子を見るとそそくさと仕事へ戻っていった。もうとっくに夜は明けていて、黄色い陽光がフロントガラスの正面からまともに差し込んでくる。車内の温度が上がり、角都はエンジンを切る。しんと静まる中、こんな初日詣ははじめてだぜ、と飛段が呟く。角都は吐息に乗せて、ああ、と返答する。もう二度とごめんだがな。そーか?これで納期に間に合うみてーだし問題なくね?あれを問題なしというなら貴様マジでいかれてるぞ、おい、袖で洟を拭くな。ティッシュがもうねえ、気にすんなよちゃんと洗って返すから。すすりあげた鼻水をわざとらしく防寒着の袖で拭い、飛段はへっへっと笑う。何がおかしいと問われると、昨日のオメーのテンパったツラを思い出した、などと言う。日ごろ失敗しねえ奴ほどダメージがでかいってことがよくわかったぜ、オレみたいにしゅっちゅうやらかしてりゃあんなの平気なのによォ。空気が漏れるように笑い続ける飛段の頭を平手で叩き、角都は半日以上乗り詰めだったトラクターのドアを開ける。事務所へ行けば何か食べられるだろうし仮眠室もあるだろう。だが、しばしためらった後に角都は開けたばかりのドアを閉めてロックし、助手席の男を乱暴に抱きかかえると、シート後ろの仮眠スペースに男もろとも転がり込む。三大欲求のうち一番差し迫っているものを解消するために。もうティッシュがないらしいが、そのぐらいの問題ならば日ごろ失敗しない角都にだって解決できるのだった。