ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

換金所の女子職員(ss)

※第三者視点です。


今日来たお客がもろ好みだった。それなりに経験はあるけどこんな直球ど真ん中は初めてだしこれからもないんじゃないだろうか。まじでやばい。覆面とフードのすきまから見える目元のしわが格好いい。声も。立ち方も。頭の大きさまで。私はとっておきのお茶をていねいにいれ、自分用に取り寄せておいた高級なチョコレート菓子を一番いい皿にのせて出した。うちのアホ社長にも同じものを出さなきゃならなかったけどそこは我慢した。上等なおもてなしをしている私を見てもらうこと、そして好印象を持ってもらうことが目的なんだから投資をけちってはならない。お茶とお菓子は彼のめがねにかなったらしく、帰られるときには皿も茶碗も空になっていた。彼と社長が挨拶をしている隙に、私は出口のそばへ移動して彼を待ち受けた。預かっていたコートを渡し、あの、とさりげなく声をかける。彼がこちらを見たところで、私は開いたままのチョコの箱を胸元(ちょうどシャツの打合せからのぞく谷間のあたり)まで持ち上げて中身を見せる。お菓子二つ残っちゃったんですけど、よろしければお一ついかがですか。彼の視線が箱に向けられてから数秒後、いただこう、という低い声が私の耳をねっとりと降りていく。やったー!彼とお菓子を分け合っちゃうぜ!陰でこそこそ二人っきりで食べちゃうんだもんね!鼻息荒く箱を差し出すと、彼はひょいと箱ごと取って、俺の連れが菓子好きでな、と言って出て行った。振り返りもせず。ぽかんと見送る私の背後から、お菓子うまかったよ○○ちゃん、とアホ社長が声をかけてくる。当然ですよ、と私は返し、つかつかと作業台に戻ると猛烈な勢いで傷んだ死体をつなぎ始める。ところで社長、あなたがさっき食べたトリュフは一粒五十両ですからね、来月期待してますよ!