ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

おかえり(ss)



大事な用があると言って出かけていた飛段が丸一日たって宿に戻ってきた。黙ったまま畳に胡坐をかき、伏せ気味の面を壁に向ける相棒を、角都はちらりと見たきり書きものを続ける。今月の収支、終えた仕事、今後の予定、めぼしい賞金首の情報、今書けることがらをすべて書いてしまった角都は、それでも紙面に筆を滑らせてかすかな物音を立てることをやめない。やがて飛段が親指のつけ根で頬の上をこすりあげ、中途半端にぬぐっていた洟をブブーと派手な音を立ててかみ捨てる。そこで初めて角都は顔を上げ、相棒をまともに見る。なんだ帰っていたのなら声ぐらいかけろ。うるせーよ、と飛段は答えるが、まだ声が水っぽいのでそれ以上話す危険は冒さない。それでも先ほどよりは少し明るくなったむくれ顔を角都は眺めすぎない程度に眺め、また帳簿に目を落とす。もう少し待つとしよう、と角都は考える。どこもかしこもヒリヒリするようなときには愛撫も辛いものだから。