ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

二着のコート(ss)


昼間の熱がこもる宿の部屋の窓をオレは大きく開け放した。本当は布団を敷きたかったけど、ものすごく疲れていたのでコートを着たままささくれた畳の上にごろりと横になる。頭が落ち着かないが枕を持ってくるのも億劫だし、風が気持ちいいし、そのままごろごろしているうちに中途半端に眠ってしまったオレは、次から次へと追い飛ばされるようにおかしな夢ばかりを見てしまう。夢でまで疲れて眠るのもいやになり、体を起こしてぼんやりしていたら、部屋にすっと入ってきた角都がオレのそばに寄ってきて膝をつき、肩に手を置いてこっちの顔を覗きこんできた。飛段、今日は悪かったな、大変な思いをしたろう、すまなかった。昼間に奴がやらかした手ひどい仕打ちをずっと根に持っていたオレなのだが、謝罪されるとすぐにほだされてしまう。いいってことよ、テメーも大変だったろ、気にすんなってェ。すっかりわだかまりが解けて相手を許し、気持ちよくなっていたら、パシリと何かの音がして、目を開いたら角都が窓を閉めていた。なんだ夢かよ、とオレは落胆する。考えてみれば角都のヤローがあんなふうに謝ってくるわけはないんだった。あーあ、と寝がえりを打ってオレは奴に背を向け、頭の下に敷かれたコートを抱き寄せてもっとオレの頭に合った形に直す。寒い季節でもなし布団もいらないから、角都なんて放っておいてこのまま寝てしまおう。