ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

主体と客体(ss)



ただ飛段に触れたい角都はそのための言い訳を探すがなかなか見つからない。夜ならばなんとでもなるだろう、しかし今は真昼間でしかも街中である。何らかの理由で仕置きをすれば触れることができる。けれども今の角都は飛段を猫可愛がりしたい気分なのだった。肩を抱いて髪に触れ、顎を持ち上げて接吻したり、自分の胡坐に抱きこんで重さを満喫しながら背を撫でたり、粘つく食べ物を指で食べさせたり、そんなことをしてみたい。しかし不意にそんな振る舞いをしたら相手は大いに不審がることだろう。うまく処理できない欲望を抱えて角都はさらに寡黙になり、眉間にしわを寄せて俯きがちに歩く。そんな相棒を飛段が的外れに気遣う。おいおい何だよ辛気臭ぇツラして調子でも悪いのかァ。悪くない。嘘つけ、体の形がおかしいぜェ、目もなんか変だしよォ。体の形、と言われて角都はつい自分の下腹部に目を落としてしまうが当然表に見える変化はない。姿勢のことかと遅れて思い当たり、急ぎ背筋を伸ばすが、飛段の視線はますます訝しげになるばかりである。下手に答えない方が良いと判断した角都は、その後もつべこべ尋ねてくる飛段の気遣いを無視することにし、それでことが済んだと思ったのだがそうはならなかった。通り沿いに茶店を見つけた飛段は急に相棒の手をつかむと強引に入店し、風通しの良い席に角都を座らせすぐ隣に自分も腰を据えると、有無を言わさぬ勢いで角都の額当てと頭巾とマスクをまとめて引き剥いだ。クソ暑いのにこんなもんかぶってたらオレだって気持ち悪くなるぜ。淡々とそう言った飛段は乱れた角都の髪を撫でつけ、コートの前を開く。相手のペースに乗れない角都だが、自分の前に置かれた熱い茶を必死に吹いて冷まそうとしている飛段を見ているうち、肩の力が抜けていくのを感じる。俺は常に為す者であったが、と角都は考える。為される側になるのもそう悪くはないかもしれない。そんな角都の背を飛段の手が撫でる。四角いものを丸くするかのように、何度も何度も。