ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

いい言葉(ss)



朝、髪をつかんで揺すぶられ、尻を蹴られ、みぞおちを踏まれてやっと起き出してきた飛段が大きなあくびを連発する。角都はそんな相棒をいぎたない怠け者と罵りながらも早起きして収穫してきた野生のコケモモを惜しみなく分けてやる。朝露が光るコケモモで唇を紫色にしながら、なあ角都、と飛段が話しかける。「おやすみ」っていい言葉だよなぁ、「おやすみ」って言ったらいつだって寝ていいんだからよォ。バカが、と角都は切り捨てる。寝っぱなしでは「おやすみ」も言えまい、つまり「おやすみ」を言うにはその都度起きなきゃならんということだ。あー、と言ったきり飛段はぼんやりとコケモモを噛む。しばらくの沈黙の後、再び飛段が、なあ角都、と話しかける。それでも「おやすみ」っていい言葉だと思うぜ、寝る時まで誰かと一緒じゃなきゃ「おやすみ」なんて言わねえもん。角都は無関心な顔でコケモモを食べ続けるが、実は相棒の言葉に心を揺さぶられている。飛段は正しい。角都自身この数年間で、それまでの何倍も、何十倍もその言葉を。