ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

引力(ss)



道中落ち合った情報屋と角都の話がなかなか終わらない。しびれをきらしたオレは二人を置いて道を進む。太陽が照りつける岩山の小道はくねくねとして分岐し、見通しも悪い。だんだん不安になってきた。迷うのは平気だが角都とはぐれるのは避けたい。だが先に行くぜと言い捨てた手前、いくらも歩かないうちにとどまって奴を待つのは格好がつかない。そこでオレは隠しから小銭を取り出し、しばらく歩くたびに道のまんなかにそれをぽつぽつ置いた。角都なら小銭のありかを嗅ぎつけるに違いないと思ったから。はたして小一時間後、追いついてきた角都が、まったくお前には驚かされる、と言ってずっと握ってきたのか温まった小銭をじゃらりと返してよこした。カネを道しるべに使う奴がいるか、見つけられなかったらどうするんだバカが。オレはオレで驚き呆れている。返された小銭が撒いてきたものよりも多いからである。オレは角都の嗅覚を過小評価していたのかもしれない。「壱」という文字が磨滅している古い硬貨、いつ誰がどこで落としたかわからないこんなものをこいつはどうやって見つけてきたんだろう。それとも小銭の方が角都めがけて飛んでくるんだろうか。