ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

社員(腐)の印象(parallel)

※第三者視点です。



お客様が応接室でお待ちだと聞いて、取引は不調に終わるのだな、と思いました。私は一日に数十人のお客様に応対しますが、その方のお名前が特徴的だったので、ご相談の内容までよく記憶していたのです。その方はほんの二、三日前に当社を来訪され、株取引についてお尋ねになったのでした。当社は産業機器生産会社としてそれなりの知名度がありますが、大手会社のように海外に工場を設営できる資本はなく、コストの面において限界を抱えています。株価低迷の現在、買いが入ること自体が稀なのですが、そのお客様は当社の中でも傍系の産業に興味をお持ちだったのです。貴社の炭素繊維には将来性がある、とお客様はおっしゃいました。消費型産業は遅かれ早かれ頭打ちになるだろうが、その時に生き残れるのは環境課題に取り組む会社であろうと。なにしろ大口の株取引についてのお話でしたし、会社経営についてかなり辛辣なご意見も賜りましたので、お客様がごく一般的な会社案内資料をお持ち帰りになったとき、これがまとまるとしても先のことだろうと私は思いました。ですから日を置かずにお見えになったということは破談を知らせに来られたのだとしか考えられなかったのです。応接室には以前見えた方ともう一人のお若い方がいらっしゃいました。ご挨拶をする私にお客様は、今日は秘書を連れてきた、とおっしゃったので、私は不躾ながら飛段と呼ばれたその方をじっと眺めてしまいました。容姿は整っていましたが、落ち着きなくネクタイをいじる様子は秘書というより子どものようで、それでいて変に色気のある方だったのです。そんな私に角都様が株購入の申請書を渡してこられました。購入をお決めになったこと、そしてその株数が予想をはるかに上回っていたことに私は驚きましたが、申請受理後にお客様が、連れが靴ずれを起こしたので絆創膏を二枚もらえまいか、と言ってこられたときには更に驚いてしまいました。以前お出でになったとき、貴社は社員に甘すぎる、もっと人件費を削減しないと市場で生き残れないとおっしゃっていた、その口調が、なんというか、他人への情けを否定するような冷徹なものでしたので。この数日の間に何かお客様のお気持ちを変える出来事があったのではないでしょうか。そして、それはあのいきなり現れた秘書の方と無関係ではない、そのように私には思えるのです。



※お題「靴ずれ」