ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

真偽のわからぬ(ss)



その換金所で、珍しく飛段が焦れずに金勘定を待っていたことを角都は覚えている。忍び崩れの主人は凄絶な経験を持つ老練者のくせに容姿は驚くほど若く、四十そこそこにしか見えなかった。話がうまく、聞き手に合わせて真偽のわからぬ物語をいくらでも語り、手相をよく読んだ。あるとき、その換金所の帰りに飛段が、自分の手相は非常に珍しい強運のあらわれであるらしいと言った。欲しいものは何でも手に入るんだとよ、うまくいかねぇときは環境変えろって言われたぜ、どう転んでもオレにゃ運がついてくるからって。角都はそれを聞きながら眉間のしわを深くしたが、自分の手のひらに気を取られていた飛段はそのことに気づかなかった。次の日、路上で惨殺された換金所の主人が発見された。犯人は見つからなかった。どこからともなく鬼の仕業であるという噂が立ったが、真偽はわからぬままだった。