ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

大欲は無欲に似たり(ss)



冷たい雨が降り出し、ぶるりと身震いをした飛段は背を丸めて腕組みをした。雨宿りをする場所はなく、立ち止まればもっと寒くなるのはわかりきっているので、休憩しようとはさすがに言いださないが、その分いつまでも寒い寒いとこぼし続ける。おいあとどんだけあるんだ、超さみーぞ、ああくそ熱ーい鍋が食いてえな、肉が入ってるやつで、それに熱燗つけてよ、で、風呂入ってじんじん温まって乾いた布団に入って…。お前の望みは安いな、と角都が相棒をバカにする。なんだとォ!と喚いてみたものの寒くて怒りも続かない飛段は、へっくし、とくしゃみをした後、元の情けない声で角都に問いかける。んじゃよォ、もし今すっげーボインの超いけてるウルトラスーパー女神が降臨してよ、おめーの望みを三つかなえてくれるっつったらどーする。金だ。迷いない即答に、だろーなァ、と飛段が気のない相槌を打つ。あと二つは何だよ角都。少し黙った後、三つもいらん、とそっけなく角都が答える。俺には金があればいい、あとの二つはお前にやる。その揺るぎのない声がなぜか憎らしく、飛段も真似をして、オレの望みは世界中の奴らがジャシン教徒になること、それだけだぜ、と言い切ってみせる。残りのいっこはテメーに返してやるから好きに使えよ。本当は最後の一つで角都の不死を望みたかった飛段はツキツキする心を抱えながら意地を張る。自分で勝手に想定した架空の望みを失い、先ほどと打って変わってむっつり黙り込む相棒をちらと窺った角都は、コートを脱ぐと頭からそれをかぶり、肩をつかんで引き寄せた相棒もその傘下に入れてしまう。そうかならば代わりに俺が望もう、今夜の宿で食う鍋は肉ではなく鮟鱇にする、味噌仕立てで太った肝が入っているやつだ、いいな。なんだよテメーの望みもいい加減安いじゃねーかと言い返しながら、あっという間に機嫌を直した飛段はコートの面積を生かすべく相棒の腰に手を回す。ぼうと染まった耳を間近に見て、その女神とやらは銀髪に違いないと角都は考える。確かにかなえてもらう望みは三つもいらない、最後の一つで充分だ。



※さくま様からのリク「三つ目の…」