ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

不死者のスイッチ(ss)



ずっと儀式をしていなくてイラついていたオレは久しぶりの贄にやる気満々だったのだが、こいつがとんだくわせ者で、ちょっと攻撃したらすぐに死んでしまった。煽って煽って怖がらせてしみじみ殺すつもりだったのに台無しだ。角都はと言えば贄から得た賞金首の情報で頭がいっぱいのようで、その後、突然の大雨を避けるために入ったかび臭い廃屋でも熱心に地図を広げている。どいつもこいつもまったくつまらない。欲求不満で悶々としていたオレは気晴らしがしたくて角都を誘おうとした。やや明るい窓辺で地図を見る相棒の襟首をつかんでマスクを引き下ろし、すばやく伸びあがる。運悪くそのときちょうど角都が俯いたので、オレたちの接触はキスというより口の衝突事故になった。人中という急所を知ってるだろうか。鼻の下の部分だが、オレは今まであそこが急所なんてハッタリだと思っていた。まあ死なないかもしれないが、あそこを打つとけっこうイタイ。オレたちは互いに自分の口元を手で押さえて「ゴッ」とか「ブッ」とか言いながらちょっと苦しんだ。先に立ち直ったのは悔しいけど角都の方だ。このバカが、何のつもりだ。涙目で見上げると、オレを怒るその口元に血が滲んでいる。自分の口の中に確かに血の味を認めたオレは、これは角都の血なんだ今ならこいつを殺せるなと思い、急に腰がカクカク震えるほどに興奮してしまった。どうしたらよいかわからず、オレは両手で相棒にすがりつき、その太腿にオレの体をこすりつける。あまりに気持ちが良くて目が開けられず、息もつけない。気持ちいいんだってことをわかってもらおうとしても声も出ない。角都のことなんか構わず一人で最後までやっちまおうと動きを速めると、なんと角都自らオレの腰をつかんで太腿を持ち上げ、角都とオレに挟まれたオレ自身をぎゅっと押しつぶしてきた。これはたまらん。角都、と呼ぼうとした口からかすれた息が漏れて、はぁん、と鳴る。体が病気のように激しく震えて閉じた目の奥が白くなる。やがて波が去ったあともオレは角都に抱きついたままじっとしていた。変なことをしでかして気恥ずかしいというのもあるが、本当は体に余韻のようなしびれが残っていて動くのが惜しかったのである。そしたら角都がオレの後頭部を大きな手で撫でて、なんだか途方に暮れたような声で、まったく貴様という野郎は、と言い、それから角都のターンになった。角都もオレを殺すことを考えて興奮したんだろうか。だとしたら殺し合いとはなんと卑猥なものなのだろう。