ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

鬼門(ss)

こあん様のリク「脛の疵」による小話です。飛段の脛ということで。こあん様、楽しいリクをありがとうございました。



角都が金を数える。外は殴るような大雨だ。街外れの廃屋に構えられたこの換金所より他に雨宿りする場所もなく、手持ち無沙汰の飛段は椅子にひっくり返って机に足をのせ、つぶれない時間を持て余す。さっさと行こうぜ角都よォ、と促してみても金勘定中の角都は絶対に気を散らさない。先ほど角都が机においた紙きれを開いてみても書き流された筆文字はまったく意味不明で退屈しのぎにならず、暇を持て余した飛段は机に転がっていた鉛筆を拾うと紙の余白に落書きを始めた。楕円に三角を重ねて長方形を書きこむと相棒の顔ができあがる。だんだん熱中してきた飛段は時間をかけて頭巾だけをかぶった全裸の相棒を描きあげる。片手を胸に、片手を股間に置いたビーナスポーズの角都の口元からは「いやーんみないでー」というセリフが、尻からはお約束の屁が吹き出し、足元にはとぐろを巻いた糞が湯気を上げている。出来栄えに満足した飛段は、相棒が札束をケースにしまう音を聞いて急ぎ紙切れを折りたたみ、元の場所に戻すと、何食わぬ顔で身支度を始めた。濡れたコートを羽織り笠をかぶる飛段の耳に角都の声が聞こえてくる。世話になったな、これは前に約束した情報だ、そっちの親玉に見せれば涎を流して喜ぶだろう、楽しみにしておけ。はっと振り向いたときには換金所の主人は既にふところに手をしまいこんでしまっている。件の紙切れが相手の手に渡ったのかそうでないのかがわからずひとり気を揉む飛段はもたもたするなと角都に叱られ、不安を口にできないまま換金所を後にすることになった。それからというもの、進路がその街へ向くたび盛大に駄々をこねる相棒に角都は長い間当惑させられたが、その理由を知ることはついになかったのである。