ハキダメ

ダメ人間の妄想の掃き溜め

通告(ss)



そいつはたまたま角都がいないところにやって来た。奴がいつ戻るのかと訊かれて、オレは知らねえなと答えた。すげー感じ悪く言ってやったのにそいつは怒らず、ただ困ったようにオレを見ていた。君たちを探し当てるのにずいぶんかかってしまった、私はもう戻らなければならない、悪いが伝言を頼まれてくれないか。そいつの額宛を見たときから情けないぐらいびびっていたオレは、逃げることもできず、そいつの口が動くのをいやいや見ていた。本来ならこのようなことは里長が直々に伝えるべきなのだが、滝隠れでは現在内乱が勃発していて果たせないのだ、とそいつは言った。でもあの方が名誉回復して戻られれば里もきっと安定するだろう。なんでそんなことをいちいちオレに聞かせるのか。オレはそいつを殺したかったけど、絶対に殺しちゃいけないってこともわかっていた。そいつが残していった手紙も燃やしたかったけど、そうせずに、ぐちゃぐちゃに丸めてポケットに押しこんだ。翌朝、予定通りに角都が宿へ戻って来たときも、その紙切れはオレのポケットを重く垂れさがらせていた。角都はオレを見て眉をひそめ、何かあったのか、と尋ねたが、オレはなんもねーよと返事をしてすぐに部屋を出た。飲み込んだ言葉が喉に雑巾のように詰まっていて、どうかすると反吐のようにせりあがってきそうだった。頭の中で言葉がでかい蜂みたいにガンガン飛び回る。嘘をついた嘘をついたオレは嘘をついたオレは嘘を。